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June 29, 2009

実感・裁判員裁判(模擬裁判に参加して)【大橋】

 久々に登場した大橋です。
 ブログの竹虎模様が復活したことにも気づいていませんでした。


 松井が書いてくれた「模擬裁判員裁判」(6月10日実施)については、副主任弁護人役をしてみて、かなり興味深かったです。(弁護人は3人組で、私よりベテランと、私より若手で組んだのです。)

◆ 一つは、公判前整理手続で争点を絞り込む手順から、当日の審理の流れ、裁判員に説明するときに必要な資料の準備や説明の流れの工夫など、一通りのものを「やってみた」ので「わかった」ということです。

 これで裁判員裁判の弁護依頼が来てもこわくありません。刑事弁護に長けた弁護士にも伝ができましたし。

 (だからといって、安心して重い罪を犯して依頼しないようにしてください(-_-;))

 
◆ 二つめは、裁判員の人たち(法曹界の「常識」に囚われない考えをする人たち)の実際の思考過程に触れることができたということです。

 今回の模擬裁判について言えば、罪名は「殺人未遂」ですが、加害者と被害者はヤクザの義兄弟関係で、歳は若いのに偉そうな兄貴分(被害者)に日頃からプライドを傷つけられてきた弟分(加害者)が酒の勢いで包丁を突き出したという事案でした。
 被害者は全治3カ月の診断書が出る重症でしたが、1カ月半で病院から無断退院したという、あまりかわいそうでない人でした。しかも100万円で示談しています。嘆願書までは書いてくれませんでした。
 しかし、被害者のしっかり者の兄が「みかん園へ引き取って働かせます」と約束してくれました。

 法曹界の「常識」だと、これは実刑事案です。

 しかし、評議を傍聴していると(模擬裁判だからできたのであって、実際には傍聴はできません)、裁判員は、あまりかわいそうでない被害者の存在には当初気持ちが向かず、加害者の「犯行動機」への同情が強く出てきました。「無理もない」「酒さえ断てればやり直せるのではないか」と、雰囲気はぐぐっと「執行猶予」へ傾きます。

 そのうち、過去の量刑相場表を見ながら、また裁判官の説明も聞きながら、「実刑」の方へ引き上げられていきましたが。

 法廷で強く印象づけられたことにまず思考が向いていくのがわかりました。初めて審理をするのですから、そうなって当然ではあります。

 最後の「評議」という場が、裁判官と裁判員だけで行われることになるので、弁護人から見ればブラックボックスです。この場で裁判官はどんな進行をするのか、説明をするのか。ここへも出来る限りの要望をしていくべきと考えますが、法廷では、弁護人はとにかく裁判員に強い印象付けをしておかなければなりません。
 (同じ問題意識を、検察官側もまた持っているはずですが。)


◆ 三つめに、「被告人は判決が下りた後どうなるのか」についての説明の重要性です。

 裁判員の方は、量刑を考えるときに、「執行猶予」の方はまだわかりますが、「刑務所へ行くというのはどういうことなのか、何年行くべきなのか」の判断をするときに、刑務所のことを知らずに戸惑います。

 刑事政策を学べば、刑務所についてはいろいろな問題点があります。

 確かに、刑務所は人を反省させ、勉強させ、出所後の生活再建のために研修などを受ける場であるべきでしょう。プログラムも考えられてはいます。「過剰拘禁」問題が長年ありましたが、近時は解消の方向にはあるようです。

 ただ、刑務所へ入ることによる弊害も大きいです。
 刑務所は「自由刑」つまり移動の自由その他を制限する刑であるはずなのに、実際には、身体拘束を受けることによって、職場を失い、家族を失う場合もあります。
 出所したからといって職がすぐ見つかるとも限りませんし、履歴書にはっきり受刑歴を書けば採用されないし、空けておけば不審がられるし経歴詐称と言われかねません。「前科者」であることによる不利益はずっと付きまといます。
 そのうちに「前科者」同士が連絡を取り合い、よからぬことで身を立てる方向へ行ってしまうこともあります。

 出所後のフォローがあまりに不備である。したがって現状で安易に実刑を肯定的に見ることはできない。そう思います。

 そういった、受刑の実際について、評議室で裁判官はちゃんと説明してくれるのかといえば、現状では余り期待できません。
 社会的に受刑者の問題がよく理解されるようになればよいのですが、とりあえずは、弁護人が法廷でそうした情報を裁判員に示すようにするべきであるように思います。
 刑務所自体の改革も必要です。諸外国では「週末拘禁」「夜間拘禁」という制度もあるのです。平日や日中はそのまま働きに行けるのです。


◆◆ 裁判員裁判がひとつのきっかけになり、「罪を犯した人の更生保護」への道がさまざまなバラエティで展開されるようになり、一般の人の理解も深まれば、それはそれで意味があると言えると思います。

  更生保護について、また裁判員裁判については、「アジェンダ」という季刊誌に書きました。よろしければご覧ください。

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