« June 2007 | Main | September 2007 »

August 2007

August 05, 2007

加害者が被害者に負う道義的責任、法的責任【大橋】


 最近、職場のいじめ問題に関する労働審判申立てをした件が、調停成立で終わりました。
 これをきっかけに、考えたことです。

 結論を先に言いますと、
 「 道義的責任(被害者にお詫び) ⊂ 民事責任(被害者に賠償) ⊂ 刑事責任(国から刑罰) 」
というテーマです。


 他人を傷つける行為。
 電車の中でよろけて、後ろの人の靴を踏んでしまったとか。
 虫が大変苦手な人の目の前に、テントウムシを差し出したりとか。

 大変軽微な例ですみません。
 しかし、事情によっては「被害者」は大変な苦痛を受けることがあります。

 そのとき、「加害者」は「被害者」の苦痛を見て取り、「ごめんなさい」と謝りますね。
 どうして苦痛なのかは推測しきれなくても、自分のせいで苦痛を与えたと見て取ればまず謝る。
 「他人に迷惑をかけてはいけません」と小さいときからしつけられ、常識ある大人の行動として。

 これは、道義的責任の話です。


 道義的責任を超えて法的責任となり、金銭賠償等を負わされることになるのには、別の事情が必要です。

 「損害との相当因果関係」です。
 それから、「故意」または「過失」です。

 電車の中で足を踏まれた「被害者」が、実は靴の先に大事な割れ物を入れていて、それが壊れてしまったとします。「加害者」からすればそんな事情は通常想定しうる範囲を超えています。
 この破損は「相当因果関係ある損害」とはいえません。

 電車の中で足を踏まれた「被害者」が、実は大変に骨の弱い人で、足の甲や足指が骨折してしまったとします。
 足を踏んだら、もしかしたら骨の弱い人は骨折をするかもしれない。これは想定の範囲です。
 そして、電車の中ではよろけて他人の足を踏まないように注意することは必要だし、できることですから、それを怠ったのには「過失」があり、法的責任が問われます。

 テントウムシを見せられた「被害者」が、前に何らかの事情で虫で怖い目に遭っていたために、その経験を思い出して強いショックを受け、1週間寝込んでしまったとしましょう。
 「加害者」はまさかこんなことになるとは思っていません。可愛いなと思って見せただけです。
 これは相当因果関係の有無も問題になるでしょうし、過失といえるかどうかの問題にもなるでしょう。

 ただ、もし「被害者」が前々から「私は昆虫が苦手で、見ただけで体が震える」と言っていたとしましょう。
 「加害者」は分かっていながら「テントウムシでも震えるかどうか試してみよう」と考えたとします。これはまさに「いじめ」です。「故意」になるわけです。
 「加害者」が分かっていたのに軽く考えていて、うっかり見せてしまったとき、「過失(注意義務違反)」と評価されるわけです。


 民事の不法行為責任を問われるには、このように「故意」や「過失」が必要になります。

 また、刑事責任を問われるには、原則として「故意」が必要になります。
 「わかっていながら犯罪行為を行うこと」を、わざわざ国が介入して罰する、というのが刑事裁判です。

 こうしたことは、学校でもマスコミでもはっきりわかるように説明していません。

 大変アバウトに説明すれば、冒頭に示した、

   「 道義的責任(被害者にお詫び) ⊂ 民事責任(被害者に賠償) ⊂ 刑事責任(国から刑罰) 」

ということになります。


 人間社会では、人間同士の摩擦は絶対に生じます。
 「お互いさま」の精神で謝ったり許したりしながら、助け合って生活する。
 これが人間生活の基本だと思いますし、それを超える事態になって初めて、「法的な追及」の問題になるのです。
 常識を知らない人というのは必ずいますし、周りが説教をしたり、説教が通じなければ周りが「困ったものだ」と言いながらフォローしたり。周りがそれなりに努力をせざるを得ません。

 「被害者」が「いじめ」と捉えた問題も、周りから見れば「何くそ」とがんばれる程度の叱咤激励だと思えることもあるし、「被害者」が非常識である場合だってあり得ます。
 そうすると「ごめんなさい、これからは気を付けます」「お互い言いたいことは溜めないで言い合おうね」という話合いでの和解で終わるのが一番の解決、となります。

 損害が生じたときに、「加害者」に賠償を求めることができない場合も出てきます。それを補填するのが自分で加入する損害保険であったり、社会保障としての保険年金システムや犯罪被害者給付金制度等です。

 近隣関係の紛争、離婚や相続といった親族関係の問題も、周りや本人が努力・我慢すべき限度内か、「法的な追及」の話であるのかどうか。
 私たち弁護士が仕事をするときには前提としてこの判断基準を持ち、相談者の悩みを分析して説明しなければならないと思います。 

« June 2007 | Main | September 2007 »

October 2014
Sun Mon Tue Wed Thu Fri Sat
      1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31  

Recent Trackbacks