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September 2006

September 03, 2006

「法曹の使命と責任」に思う【大橋】

 大橋です。私もきっと聞いたはずの「所長講話」、その話自体は覚えていないですね・・

 しかし、「法曹の使命と責任」というテーマで思い出したことをいくつか。

1 ある弁護団会議で。退去強制処分を受ける外国人を収容する入管センターで起こった「職員からの過度の『制圧』による傷害事件」での国家賠償訴訟を起こしています。
  支援団体からの依頼と中心の弁護士からの呼びかけで弁護士が集まり、着手金とか実費とかはさておきで訴訟を進めています。
  話題が途中で司法修習生の話になりました。これまでは修習生は国家公務員に準じて給料をもらっていたのですが、今後、貸与制になります。
  ひとりの若手の弁護士が、「私ら、修習生のときに給料をもらって研修していたから、弁護士になったら社会に何か還元しないといけない、と思ってきてますけど、貸与制になると自分のために資格をとる感覚になるでしょ?そんな気持ちはなくなってくるんじゃないかなあと思いますけど。」と言いました。
  私は、そういう考え方もあるかな、と思い、「社会に何か還元しないといけない」と思っているこの弁護士の素直さにちょっと感動し、また、「どの弁護士もそうというわけじゃないのでは?」とも思いました。
  ただ、確かに「法曹の使命」という言葉は、これからの「弁護士年3000人時代」において存在感を薄くしていくのではないかという危惧があります。

2 最近、私の事務所に電話予約をして借金の相談に来られた方がいます。
  初めて、現役のホームレスの方をお迎えしました。
  これまでは、既に自立支援センターやシェルターや生活保護施設に入っている人だけだったのです。
  「どうしてうちの事務所を知って来られたのですか?」と聞くと、あいりんセンター(西成区にある日雇労働者のための施設)の相談室から教えてもらった、と言ってメモを取り出されました。
  それから、以前に「なにわ路情」というホームレス支援紙に連載していた「借金問題は解決できます」という記事のコピーもお持ちでした。
  私も弁護士会の「ホームレス問題プロジェクトチーム」に関わって5年目になるのでしょうか、今では「ホームレス問題部会」に昇格し、活動分野がどんどん拡大してきました。今はまとめ役で部会長をしています。
  私の関心は必ずしもホームレス問題に限りませんが、「路上に寝ている人」を疎外し他者として蔑み眺める視線には猛烈に抵抗を感じます。それで続けてきていると思いますし、部会員が生き生きと活動するのもおそらく同じ思いでしょう。
  私が1年以上前に書いた原稿がコピーされて、困っているホームレスの人に渡っていくということは嬉しいものです。
  また、この事業こそ「公的支援」、具体的には弁護士費用援助をしてもらわなければ、うちの事務所はつぶれてしまいます。

3 またまた最近ですが、大阪府のホームレス対策で、地域巡回法律相談の担当になり、ある日、某所(野外)へ相談を受けに向かいました。司法書士さん(司法書士会の人権委員会所属)1人も同行しました。
  「もう生活保護を受けようかと思って」というその男性は、年齢的には十分に生保支給可能な人で、目立った体調の支障はないものの、夏冬の野宿生活が身に堪えるようでした。
  腕のよい溶接工だったのですが、高齢になって職がなくなり、借金には走らずに潔く野宿を選んだようです。
  「こうなりゃどこで死んでも同じ」と自転車で鹿児島へ、東北へと無銭旅行をしたものの、やはり長年住んだ大阪へ戻ってきたのだということでした。
  全国どこでもコンビニはあるので、期限切れの弁当で全く不自由はなかった。まあ2,3日食べないこともあったけどね、と笑っていました。
  このごろの生活は、「缶は拾いたくない」というこだわりがあり、車のホイールを拾ってお金に換え、100円ショップで必要なものを買いそろえているということでした。
  生活保護を受けようと思ったきっかけは、巡回相談員に勧められて年金が受給できるかどうかを調べたところ、ずっと働いてきたのに年金を掛けた記録が半分以下しか出てこず、必要月数を満たさないことがわかって愕然としたからだそうです。
  大企業もあり、零細企業もありましたが、年金を掛けてくれていなかったようです。既に消滅している会社もあり、確認はできなくなっています。
  「生活保護、もらえるかねえ?」と心配そうに聞くので、同行の司法書士さんと「生活保護は、権利なんですよ!アパートを探して申請をしたら通りますよ!」と元気づけました。2年越しのおつき合いという巡回相談員さんも「大丈夫だよ~」と肩を叩いて元気づけます。
  孤独な野宿生活に追いつめられた人が、人を信頼して社会との関わりを取り戻していく現場に立ち会って、少しでも力添えができれば嬉しいことです。

4 もう一つ、違う方向から、書きたくなりました。
  弁護士は、世間で誤解を受けているところもあるかもしれませんが、「依頼者が勝つことだけを考える」職業ではありません。仕事の内容を「紛争の円満な解決」と捉えています。
  ですから、依頼者の要求が「通らない話」であれば、それは無理ですと断ります。
  「通らなくてもいいんです。気が済みません」と言われたら、「通らなくてもいいんですね」と念を押した上、裁判を受ける権利を実現することを手伝います。
  相手方の要求が「通らない話」であるとき、弁護士がついてくれて説得してくれることを期待します。
  弁護士同士で「この辺が妥当な解決」というラインが合意できれば、それに合わせてお互いが依頼者を説得します。
  弁護士には一種、裁判官的な「公正さ」が期待されています。その社会的な信頼を失わないよう、経験もたくさん積み、自己満足的な判断に陥らないことを自戒していかなければならないと思います。

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