« 配偶者の不倫、どう始末をつけるのか【大橋】 | Main | モラル・ハラスメントをご存じですか?【大橋】 »

January 31, 2006

マクガワン氏判決のおかしさ!【大橋】

 1月30日、アフリカ系アメリカ人であるスティーブ・マクガワン氏が眼鏡店への入店を拒否されたことについて、人種差別に基づくものとして慰謝料を求めた裁判の判決がありました。
 大阪地裁第18民事部の佐賀義史裁判官は、眼鏡店店主が入店を拒否した事実はあったとしながらも、「黒人キライ」という発言自体はしていなかったと判断し、単なる入店拒否であれば慰謝料までは発生しないとして請求を棄却したのです。

 まず、一応、この判決のまともだったところを挙げますと、「人種差別に基づく行為は不法行為となる」ということを明確にしたことです。これまでに、浜松市の宝石店入店拒否事件、札幌の公衆浴場入店拒否事件、東京都豊島区の入店拒否事件と同様の事件が続き、この中で、「人種差別撤廃条約」の精神が国内法規範として民法の不法行為性の判断に取り入れられてきました。
 マクガワン氏の判決も、その流れを固めるものでした。

 それはよいのですが、その後が問題です。
 この事件は、マクガワン氏と友人(アジア系)が2人で眼鏡店店内を覗き、友人が眼鏡を買いたいが目の検査費用は無料だろうか?と迷って、では聞いてみようとドアに近づき掛けたところで起こりました。
 「出て行け!コクジンキライ!ドア触らない、ショーウィンドウ触らない。ジャマ、無理!」
と店主から言われた、というのがマクガワン氏の記憶です。
 マクガワン氏は、まだ日本語に堪能とまでは言えず、「コクジン」の意味がわかりませんでした。
 それで、すぐに妻(日本人)に携帯電話を掛け、「コクジン」とは何か、「外国人」のことか?と聞いたのです。
 妻は「コクジン」と言われたということに驚き、「それはブラックピープルのこと」だと答えましたが、本当にこんな露骨な差別発言がなされたのか、どうしてそんな状況になったのか、相手方にも言い分があるかもしれない、と考えました。
 そして、その日の夕方と、翌日の午前に、夫婦で眼鏡店を訪ねました。

 ご夫婦ともクリスチャンで、「話合い、理解し合う」ことを重視する方々です。
 それで、店でも、妻はまず「このお店では、外国人を差別するということはありますか?」と聞き、そのようなことはありません、との回答を得ています。

 ここについての裁判官の判断は、驚くべきものです。ここ以外にも驚くべき判断は散見されますが、まずここからボタンの掛け違いが起こっています。
 「黒人差別が人間の尊厳にも影響する重大な違法行為であることは明らか」であることを認めた上で、そうであるならば、妻は店でまず「この店では黒人を差別するのか」と聞くはずだ、しかし妻は「外国人を差別するのか」としか聞いていない、だから妻は最初には「コクジン」という言葉は聞かされていないのだ、というのです。
 そして、「黒人」という言葉を使うことに抵抗があって婉曲的に「外国人」という言葉を用いたのであれば、その点についても説明があってしかるべきなのに、その点を何も述べていない、というのです。

 私たち弁護団は、妻が最初から「黒人を差別するのか」と聞かなかったことがそのように問題にされるとは思っても見ませんでしたので、あえて証人尋問でも聞きませんでした。
 裁判官も聞く機会があったのに、聞きませんでした。

 裁判官の発想は、「差別された人は、差別はおかしい!とすぐさま憤激して反応するはずである」というものです。
 そうではないのです。
 自らも入居差別を受けて訴訟を提起している康由美弁護士は、この裁判の代理人でもありますが、次のようにわかりやすく説明してくれています。
 いつも差別を糾弾しようと常に構えている人は、そのようにも出られるでしょう。
 しかし、日常の中で、突然、差別的な対応を受けると、まずその排除的行動に対して打ちのめされてしまうのです。
 そして、その差別者と話し合おうとすると、重ねて差別を受けることを当然覚悟しなければならず、話しかけ方もえん曲なものからスタートしようと考えます。
 裁判官は、そういった、差別された人の「これ以上傷つきたくない」という気持ちが、全くわからなかったのでしょうか。残念です。

 この店主は、自らに黒人差別意識があることを認めているのですが、それでも裁判官は、当初「黒人キライ」とは言っていないから黒人差別に基づく入店拒否をしたのではない、と判断しました。
 黙って店から追い払ったら、差別行為にならないのか??
 もう少しマシな判断が欲しかったです。

 弁護士としては「控訴してもう一度判断を得よう。こんな判決を確定させるわけにはいかない」と思いますが、マクガワン氏に掛かる負担の数々を考えるとき、安易に勧めることもできません。
 マクガワン氏夫婦の負ってしまった心の傷を思い、また、弁護団としてもより念を入れた立証が必要だったのではないか、を問わなければならないとも思います。

« 配偶者の不倫、どう始末をつけるのか【大橋】 | Main | モラル・ハラスメントをご存じですか?【大橋】 »

弁護団活動」カテゴリの記事

Comments

「単なる入店拒否であれば慰謝料までは発生しないとして請求を棄却」という判決は確かにおかしいと個人的には思いますが、人種民族性別等の差別問題に関して「その属性を理由に入店拒否した時点で慰謝料請求が妥当」ということになると、日本に蔓延している女性専用店舗全般がダメだという事が明確になるので、容易にそのように決する事が出来ないのでは?と思いました。

いや、実際、きちんと差別認定して、女性専用店舗などに男性差別を止めさせる好機となれば良いんですけどね。

AMERICANS FOR EQUAL TREATMENT is a group of Americans that believe U.S. citizens in Japan should be able to enjoy the same rights as Japanese citizens in America (Our website is at http://www.geocities.com/americansforequaltreatment/index.html). We are preparing a statement in response to the January 30, 2006, judgement against Mr. McGowan.

Post a comment

Comments are moderated, and will not appear on this weblog until the author has approved them.

(Not displayed with comment.)

TrackBack


Listed below are links to weblogs that reference マクガワン氏判決のおかしさ!【大橋】:

» 黒人差別訴訟:公正さを欠いた地裁判決 [私的スクラップ帳]
 ライブドア騒動や "4点セット" 関連のニュースが大々的に報じられるなか、ちょっと気になるニュースを目にした。 黒人差別訴訟:原告の損害賠償請求を棄却 大阪地裁(1/30 毎日新聞)  「黒人は嫌いだ」などと差別的発言で入店を拒否され、人格を傷つけられたとして、米国人デザイナーの男性(41)=京都府精華町=が大阪府内の眼鏡店の経営者を相手取り、150万円の損害賠償を求めた訴訟で、大阪地裁(佐賀義史裁判官)は30日、「黒人差別の発言の事実が認められない」と原告の請求を棄却した。 (中略) 訴訟で原告... [Read More]

» The McGowan case [Yankumi: news about Japan, Holland, games and translations]
Andrea made me aware of one the strangest legal cases in Japanese history, which actually proves that discrimination in Japan still exists (though on itself, that is no surprise - I never claimed it d... [Read More]

» The McGowan case (2) [Yankumi: news about Japan, Holland, games and translations]
Ms. Sayuri Ohashi from the Osaka-Futaba Law Office[Read More]

» 入店拒否に慰謝料認定 :「黒人差別」めぐり大阪高裁 [多文化・多民族・多国籍社会で「人として」]
2006.10.19:18:15ころ 今年2月にこちらでメモしておいた訴訟の高裁 [Read More]

« 配偶者の不倫、どう始末をつけるのか【大橋】 | Main | モラル・ハラスメントをご存じですか?【大橋】 »

October 2018
Sun Mon Tue Wed Thu Fri Sat
  1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30 31      

Recent Trackbacks