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October 09, 2005

小泉首相の靖国参拝は違憲(靖国台湾訴訟・控訴審判決)【大橋】

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  9月30日、大阪高裁の「小泉首相靖国神社参拝違憲・台湾訴訟」控訴審判決は、良心的裁判官の審理を受けることができた幸運によって、最初に「違憲」を明言した福岡地裁判決に続き、ようやく2件目の違憲判決となりました。
 前日に、東京高裁が、「私的な参拝である」として憲法判断に至らなかったのと対照的でしたが、同じ高裁レベルで判断が真っ二つに分かれたことについて、マスコミも熱心にとりあげてくれました。
 みなさんの感覚ではいかがでしょう?
 小泉首相は、マスコミの前でも国会でも常に、私的か公的かの明言を避けてきたのです。
 でも客観的には、どう見ても「私的」とは言えない振る舞いをしてきていました。
 ただ、裁判所でだけ、「私的な参拝だ」と書面を出し続けてきたのです。
 この、思惑が透けて見える首尾一貫しない対応に対して、きっぱりと「公的である」と断罪した大阪高裁の判断は、まったくまともな判断だと思います。

 しかし、さらに特筆すべきは、福岡地裁判決を超える、理論的前進があったことです。
 「小泉参拝の職務行為性」につき明確に違憲の判断をしたのは、福岡地裁と同様なのですが、さらに、被侵害利益についても認める余地ありとしました。
 これまで、「宗教的人格権など法的な権利・利益ではない」と一蹴されていた論点です。

 ただし、結論は「小泉による直接の侵害なし、権利侵害の目的無し」で簡単に「損害無し」の判断をされた点は、やはり不満を拭えません。
 この部分だけ、あまりに論理展開が薄いのです。
 結論が「無し」であっても、もう少し説明したらどうなの?という感じでした。

  あまりに薄く「小泉による直接の侵害なし、権利侵害の目的無し」として控訴棄却の幕引きをした背景には、「ここで勝たせたら大変なことになるから、棄却の結論に持っていくためにはそのように切り捨てるしかなかったんでしょ」と弁護団の一員が言っていました。
 ここは、規範(一般的判断基準のことです)定立がされていないのです。直接に向けられた侵害行為がない、と言っても、煤煙公害などは「被害者に向けられた行為」ではありませんし、メディアの電波で世界中に到達するということは「向けられた行為」に当たらないのはなぜか、どうして行為者に目的がなければならないのか、故意行為のみが違法性があるという理屈なのか、が明確ではありません。
 つまり、どういう要件を満たせば利益侵害が認められるのか、が予測できないのです。
 言ってみれば、利益侵害を認めませんよ、という裁判所のメッセージに他ならないのです。

 ベテラン弁護士と事務局が「まともな判決でよかったよかった」という中、私は「裁判所の政治性」に冷めていました。
 というより、訴訟団は長年取り組んで、充分冷めた上で「それにしてはまともだった」と思っているのでしょうね。

 また、台湾原告(控訴人)のみなさんは、もちろん「損害無し」は到底納得できない様子です。
 判決の夜は台湾原告団との交流があるだろうと思っていたのですが、別行動でした。
 「台湾の人達は『勝った』とは思っていないからね」と事務局スタッフ。
 
 台湾の人や原告の一部の人が「国外から見れば違憲判断だけでは何も嬉しくない」と訴訟団の喜び様に批判的だったのですが、訴訟団は、ともかく、台湾の人達に違憲判断のもつ意味について理解してもらうことに努めたとのことでした。
 
 確かに、控訴審判決にも明記されているのですが、日本の政教分離原則は、特に国家神道の侵略・軍国主義に果たした役割を深く反省した上に定められたものなのです。
 端的に言えば「靖国神社と政府の分離」を憲法で定めたわけですから、これに抵触すると宣言したのは、日本帝国主義の侵略の歴史を忘れないことを確認したのに他ならないのです。
 
 その後の、10月5日には、高松高裁で控訴審判決がありました。
 松山地裁の原審判決は、これ以上簡単には書けないというくらいにあっさりと「小泉首相が靖国神社に参拝しただけのこと、原告らには利益の侵害がない」と、結論づけ、憲法判断に全く触れませんでした。
 それで、判断が変更されるかどうかが関心事でしたが、高裁判決もまた「それでいいのだ」という追認の内容でした。

 同じ小泉首相の行為を対象として、どうしてこんなに判断が変わるのか?
 通常、同一の事件を2つの裁判所に掛けることはできませんが、被告は同一でも全国から原告となった人たちが訴訟を起こしたために、全国でバラバラに訴訟が進んでいます。
 その結果、様々な判決が出されているのは、「裁判官の独立」から当然ですが、それぞれの「裁判官の良心」が滲み出しているという実感があります。

 憲法判断に踏み込んだ判決を、結論に関係のないことに言及した「蛇足判決」であると評し、非難する向きもあります。
 しかし、なぜ三権分立というシステムで国会の民主主義を裁判所が統制する制度があるのか、なぜ裁判官が良心に従って独立して職権を行う地位を保障されているのか、なぜ裁判システムがコンピュータ化されずに人間である裁判官によって裁かれるのか、ということを、私たちも、裁判官をしている人たちも、考えねばならないと思います。

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